これより前の作品より断然、いい!!
『温室デイズ』なんかはもっと、「正し」かった。主人公はまっとうな正義感を持っていて、それに疑問もそれほど抱いていないようであった。狭い世界のようにも感じられた。
でもこの作品では、「幸福な食卓」で「形」なるものが、「救世主」で「正しさ」のようなものが、かなり明確に否定されている。
その明確さに、「正しい」感覚は残っていると思う。しかしそのことは、『温室デイズ』とは違う効果をもたらしていると思う。
この作品に描かれているのは、「正しい」世界ではない。そのままではうまくいかなくて、どこか歪んで、ねじれている。その歪みを感じられるのは、この作品に一方で、先ほど書いたような「正しい」感覚が流れているからなのだろうと思う。
彼女の言葉遣いにも「正しい」感覚があると思う。素朴な語り口だが、読みやすく句読点が打たれ、文と文がおかしなつながりかたをしたりしない。この表現で語られることによっても、主人公が周りに感じる歪みを、さらに強く感じることができるのではないかと思う。