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カミュ『異邦人』再び。

久しぶりに読んだ「あたり」の本。

ママンの埋葬のときには、主人公の言動も心の動きも、おかしいとはちっとも思わなかった。養老院に入れていたママンのところへ行く。泳ぎに行き、映画を見る。面している現実は、どこか自分から離れたところのもののようだ。ぼーっと現実を眺める彼の視線はよくわかる。
それなのに、人から見るとこんなにおかしくも見えてしまうのか。それらのことは殺人とはなんの関係もないと、主人公にも読み手にもはっきりわかっている。それだけなら特に非難も受けていなかった。裁判でそれらが取り出されて提示されると、どれもが彼の冷酷さ、非道さを示すものに見えてしまう。現実にそんな流れになってもおかしくないような説得力がある。
ずいぶん前の作品なのに、新しい感じがする。彼の感覚は一世代前の大人にはわからないのではないかという気がしてならない。そうではなく60年以上も前に大きな反響を呼んだということが驚きでしかない。
エピソードも展開もわざとらしくなく、一つ一つに意味がある。雰囲気を伝えるだけでなく、ちゃんと話が動き、落とすべきところを落として終わる。
名作というのはこういうものを言うのだろう。
by hyuri07 | 2009-01-28 23:15 | 文学


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