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小沢健二『LIFE』。

それをとりまく状況がどうであろうと、いいものは、いい。

ぼくときみとの幸せな恋の場面。それをこんなに真正面から表現している音楽は、あれから10年以上経ってもそうそう見つからない。幸せなことをポップに書いたら、幸せの極みだ。幸せを静かに書いたり、悲しいことをポップに書いたり、ひねった音楽はたくさんあるけれど。ストレートに書く方法を取ると、うまくできなければありきたりになってしまう。でもおざけんさんは、曲をポップの極みへ押し上げた。

一曲一曲が長い。5分、6分ある。そんなアルバムにはお目にかかったことがない。でもだらだら長いという感じでもない。ポップな曲が長いので、さびが来るたびに歌ってしまう。歌える箇所がいくつもあることにちょっと嬉しくなってしまう。そんなことを考えていたら、当時おざけんさんがインタビューで「ぼくの曲は長いからカラオケで歌いにくいって言われるんですよ、だから「痛快ウキウキ通り」は頑張って、3分台です!」なんて話していたのを不意に思い出した。
私は中学生のころおざけんさんが好きだったのだ。テレビに出ていると夢中で見ていた。
このアルバムも聞いてみたかったけれど、当時はお小遣いをもらっていなくてレンタルすることもできなかった。
それでも今回聞いたときに、早口の歌詞がすっと出てくるところが何箇所もあった。

私はものがこちゃこちゃっと詰まっている感じのものが好きなのかもしれない、と思った。
おざけんさんの歌詞の詰まり具合を聞いてそんなことを思う。音楽だけではない。大学生のころに気に入っていたTシャツには、正面にも背中にも余白が少なくてぎっしり絵が描いてあるものが何枚もあった。
そういう音楽はほかにどういうものがあるだろう。カジヒデキさんがメジャーソロデビューしたころに似たものを感じた。川本真琴さんの初期とか。
もしくは「とにかくポップな曲」とも言えるかもしれない。それなら最近のミュージシャンも少し上げられる。チャットモンチー、レミオロメン「南風」、相対性理論「LOVEずっきゅん」とか。カジヒデキさんを見に行ったときにも思った、私の重要なルーツの一つなのだと思う。中学生の時にはそれがもう発露していたのだ。

これだけのものを作ったおざけんさんがその後しばらくして次の音楽を見つけられなくなるのも無理ないような気がする。
もうすぐライブをされるようだが、それに先立つ雑誌のインタビューや写真を見た曽我部さんが、ちょっと辛口のコメントをしていた。
でもそんな言葉が出るのはおざけんさんの凄さを認めているからだという気もする。興味がなければ無視するだろう。
そしてこのアルバムを聞いてしまうと、今のおざけんさんがどうであろうと、次の一歩を見つめていたい気にさせられてしまうのだ。どんなおざけんさんでも、とても興味深い。このアルバムを作り上げた人には変わりないのだ。

しかしこの、きみとぼくとの幸せ感というのは、サニーデイ・サービス『東京』に漂うものと共通するところもあるような気もするのだ。サニーデイはこんなふうにポップに表現しているわけではないけれど。
「渋谷系」という乱暴なくくりがちゃんと機能することもあると知る。
by hyuri07 | 2010-05-05 23:53 | 音楽


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