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途中。

「うまい」
 咲綺はつぶやいて、もう一度肉にかぶりついた。スーパーで、半額で買った手羽先の唐揚げ。動物性たんぱく質を食べたのは久しぶりだった。そのせいか、思いの外うまかった。どこかの貧乏で寡黙な剣客のようだ。
 一本を食べ切ってパックに骨を戻しながら、重祢のことを思い出した。重祢とはもう三週間会っていない。正確に言えば二週間と五日。就職活動に専念したいからと、しばらく会うのを控えさせてほしいと言ったのは咲綺のほうだった。確かに就職活動はしている。明日も三時から面接だ。しかし明日の予定はそれだけだ。面接の準備に時間がかかることが怖くて、説明会の予約を入れることができなかった。
 咲綺は次の一本を取り上げてかぶりついた。きっと明日も三時まで、いや二時ごろ家を出るまで、中途半端な時間を過ごすのだろう。最近、予定がなくとも八時には目が覚めてしまって、寝ていられない。それでも、説明会を入れてしまえば、髪も化粧も適当なまま、忘れ物をしたまま、家を出ることになるのだ。それくらいなら、きちんと面接に出られるほうがいい。
 朝時間があって面接の準備をできるのなら、なにも夜それをすることはない。説明会のあと、ソニプラとロフトに寄って帰ってきたら八時半だった。荷物を置いて着替えてから、九時になると半額になる惣菜を狙ってもう一度家を出た。再び帰ってきて手を洗ってすぐ、買ってきた「第三のビール」を開けて一口飲んだ。
 これが二月や三月なら、そう珍しい行動ではないかもしれない。しかし気がつけば九月になっていた。友達はみな就職を決め、または進学を決めていた。
by hyuri07 | 2006-09-18 08:38 | そのほか。


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